梅の香りは春の象徴
和歌において「梅の花」は春の訪れを告げる象徴的なものとされており、古今和歌集には雪の中に力強く咲く「梅」を読んだ和歌が豊富に収録されています。今回は、梅の花がもたらす情緒深い春の景色が想起される和歌を古今和歌集から7つ厳選して紹介していきます。
様々な視点から見る梅の花
1. 春の訪れを知らせる鳥、鶯とともに歌われる梅
題しらず 【よみ人しらず】
折りつれば袖こそにほへ梅の花ありとやここに鶯の鳴く
古今和歌集 春上より
訳:梅の花を折ったので、その移り香でわが袖は格別ににおうのだ。それを梅の花があると思うのか、このわが袖に、鶯が慕って来て鳴いていることよ。
2. 梅の香りの強さに焦点を当てた日常の歌
題しらず 【よみ人しらず】
梅の花立ち寄るばかりありしより人の咎むる香にぞしみぬる
古今和歌集 春上より
訳:梅の花に、立ち寄るという程度の事があったのに、妻が、他の女の移り香ではないかととがめる香に染みたことではある。
3. 送られる梅
梅の花を折りて人におくりける 【紀友則】
君ならで誰にか見せむ梅の花色をも香をも知る人ぞ知る
古今和歌集 春上より
訳:君ならずしては、だれに見せようか。この梅の花よ。色も、香も、その愛でたさを味解し得る君だけが、味解をすることであるよ。
4. 暗いところでも分かる梅の香り
月夜に、梅の花を折りてと人のいひければ、折るとてよめる 【みつね】
月夜にはそれとも見えず梅の花香を尋ねてぞ知るべかりける
古今和歌集 春上より
訳:月夜には、月の光に紛れて、白梅の花がそれと見えない。梅の花は香のある所をたずねて、それと知るべきだったことよ。
5. 変わらない自然と変わる人の心
初瀬に詣づる毎に宿りける人の家に、久しく宿らで、程へて後にいたれりければ、かの家の主人かく定かになむ宿りはあるといひ出だして侍りければ、そこに立てりける梅の花を折りてよめる 【紀貫之】
人はいさ心も知らず故里は花ぞ昔の香ににほひける
古今和歌集 春上より
訳:人の方は、如何であろうか、心が知られない。しかし故里の方は変らないもので、第一に花が、このように昔通りに香ににおっている事であるよ。
6. いつの間にか散ってしまう梅の花
家にありける梅の花の散りけるをよめる 【紀貫之】
散りぬとも香をだに残せ梅の花恋しき時の思ひ出にせむ
古今和歌集 春上より
訳:日が暮れると思って、夜が明けると思って、絶えず目を離さずにいたものを、梅の花は、いつの、人のいない間を窺って、散ったのであろうか。
7. 散ってゆく梅を惜しむ
題しらず 【よみ人しらず】
散りぬとも香をだに残せ梅の花恋しき時の思ひ出にせむ
古今和歌集 春上より
訳:散ってしまうとも、せめては香だけでも残せよ、梅の花よ。お前の恋しい時には、その香を思い出の種としよう。
まとめ
これらの和歌を通して、梅は春の訪れを象徴する花として古来より人々に愛されてきたことが分かります。
梅の花を見つけた際は、この和歌を思い出して香りを楽しんでみるとより新しい角度で春を感じることができるかもしれません。
古今和歌集にはよりたくさんの「梅の花」に関する和歌が収められていますので、ぜひ自身の目で読み、お気に入りの和歌を見つけてみて下さい!