秋の朝の景物「露」
少し肌寒い秋の朝、草木一面に宿る露は秋の風情を象徴する景物の一つです。
「露」は古来より、鳥が夜の間に鳴き落としていった涙に例えられたり、もみじを美しい赤に染めていくものとされたりなどして多くの歌人から歌われてきました。今回は、露を通して季節の移り変わりや心情が表現された美しい秋の和歌を古今和歌集から厳選してご紹介します。
「露」について詠んだ和歌6選
1. 同じ秋の景物である「雁」と共に歌われた歌
題しらず【よみ人しらず】
鳴き渡る雁の涙や落ちつらむもの思ふ宿の萩の上の露
古今和歌集 秋上より
訳:夜、空を鳴いて渡ってゆく雁の涙がこぼれ落ちたのであろうか。歎きをしているわが家の庭の萩の花の上に置いている朝露よ。
2. 露を愛でる気持ちを詠んだ和歌
題しらず【よみ人しらず】
萩の露玉にぬかむと取れば消ぬよし見む人は枝ながら見よ
古今和歌集 秋上より
訳:萩の花の上の露を、愛でて玉として貫こうと思って、手に取ったらば消えた。ままよ、この露を見ようとする人は、枝に宿ったままで見られよ。
3. 露が木の葉を染めるという当時の考え方が表れている歌
是貞のみこの家の歌合によめる【としゆきの朝臣】
白露の色は一つをいかにして秋の木の葉を千ぢに染むらむ
古今和歌集 秋下より
訳:白露の色は同じであるものを、いかなる方法によって、秋の木の葉をさまざまに染めるのであろう。
4.
題しらず【よみ人しらず】
秋の露いろいろことに置けばこそ山の木の葉の千種なるらめ
古今和歌集 秋下より
訳:秋の露はさまざまなちがった色をして置くので、それに染められる山の木の葉が、さまざまな、ちがった色になることであろう。
5.
仙宮に、菊をわけて、人のいたれるかたをよめる【素性法師】
濡れてほす山路の菊の露のまにいつか千年を我は経にけむ
古今和歌集 秋下より
訳:仙宮へ通う山路の、そこに繁っている菊の花の露に、分け行く衣が濡れて、立ちとどまってそれを乾しているしばらくの間に、いつ自分は、千年の長い時を過ごしてしまったのであろうか。
6. 紅葉を錦に、霜と露を糸に例えた美しい歌
題しらず【せきを】
霜の経露の緯こそよわからし山の錦の織ればかつ散る
古今和歌集 秋下より
訳:露の経糸も、霜の緯糸もいずれも取り分けて弱いらしい。山の錦は、それらをもって織ると、織るはしから散る。
まとめ
このように、朝の草木に宿る一粒一粒の露は、秋の有り様を色濃く表す存在として、歌人たちから幾多の想いを寄せられてきました。
歌人たちのように、白露のような日常の身近なものから季節の移ろいを感じたり、小さな自然の美しさに目を向けてみるとより日々が心豊かになっていくのではないでしょうか。