「女郎花」を詠んだ和歌7選を古今和歌集より紹介

和歌
「女郎花」を詠んだ和歌7選を古今和歌集より紹介

秋の和歌に欠かせないテーマ「女郎花」

秋の七草の1つ、女郎花(おみなえし)。その名の通り、「女」の文字を含む言葉から、多くの歌人たちは、美しく魅力ある女性をこの花に見立ててきました。 秋の訪れを告げる女郎花は、歌合のテーマとしても頻繁に取り上げられ、さまざまな表現を残しています。 今回は、古今和歌集から、この女郎花をテーマとした佳品を厳選してご紹介します。歌人たちはいかにして、この可憐な花に女性の姿を重ねたのでしょうか。

1. 六歌仙の1人「僧正遍昭」による、僧侶という立場を踏まえた歌

題しらず【僧正遍昭】

名にめでて折れるばかりぞ女郎花われおちにきと人に語るな

古今和歌集 秋上より

訳:女郎花という、その名によって愛でて、折り取ったばかりであるぞ。女郎花よ、僧である自分が堕落したと、世間の人に話すなよ。

2. 野にたくさん咲いている女郎花を見て詠まれた歌

題しらず【をののよしき】

女郎花多かる野べに宿りせばあやなくあだの名をや立ちなむ

古今和歌集 秋上より

訳:女という名を持った女郎花の多くある野に宿りをしたならば、つまらなくも、浮気者だという評判が立つであろうか。

3. 宇多天皇の御所で開かれた女郎花合の歌

朱雀院の女郎花合に、よみて奉りける【左のおほいまうち君】

をみなへし秋の野風にうち靡き心ひとつをたれに寄すらむ

古今和歌集 秋上より

訳:女である女郎花は、秋の野風に打靡いて、人に従ったさまをしているが、一心をだれに寄せているのであろうか。

4. 同じ秋のテーマである七夕と掛け合わせて詠まれた歌

朱雀院の女郎花合に、よみて奉りける【藤原定方朝臣】

秋ならで逢ふこと難きをみなへし天の河原に生ひぬものゆゑ

古今和歌集 秋上より

訳:秋でなくては逢うことのかたい、女という名を持つ女郎花よ。天の河原に生えているのではないのに。

5. 「秋」と恋愛上での「飽き」、「女郎花」と「女性」の意味を掛け合わせた歌

朱雀院の女郎花合に、よみて奉りける【つらゆき】

誰があきにあらぬものゆゑ女郎花なぞ色にいでてまだき移ろふ

古今和歌集 秋上より

訳:だれの秋というのではなく、すべてのものの秋であるのに、女郎花よ、何故に表に現わして早くも衰えるのであるか。(だれも飽いたのでもないのに、女よ、何故に表に現わして、若くて衰えるのであるか。)

6. 秋風が運んでくる花の香りを詠んだ歌

朱雀院の女郎花合に、よみて奉りける【みつね】

女郎花ふき過ぎてくる秋風は目には見えねど香こそしるけれ

古今和歌集 秋上より

訳:女郎花の花を吹き過ぎて来る秋風は、その花の様は目に見えないが、その花の香の方ははっきりしている事であるよ。

7. 二つの意義を持つ技巧的な一首

朱雀院の女郎花合に、よみて奉りける【ただみね】

ひとりのみ眺むるよりは女郎花わが住む宿に植ゑて見ましを

古今和歌集 秋上より

訳:ただひとりで、このように眺めていようよりは、野のこの女郎花を、都のわが住む家の庭に、できるなら移植して見ようものを。

説明:この和歌は2つの意義を持っています。1つ目は野に咲く女郎花への讃美で、もう1つの隠れた意味は女郎花を女性に例えて「憧れで終わってしまうのだろうな」という嘆きを歌っています。

まとめ

このように、多くの歌人たちが女郎花に魂を籠め、美しい女性の姿を詠み上げてきました。 秋の七草でありながら、「女」の文字を含むこの花は、歌合のテーマとしても頻繁に選ばれました。花を介して思いを馳せる作品の数々に、日本人の繊細な心根を見ることができるのではないでしょうか。 女性を讃えるが如く、しとやかに、そして凛とした佇まいをもって咲く女郎花。季節の移ろいとともに、人々の心に深く根付いた古今の名歌を味わってみてはいかがでしょうか。

古今和歌集を楽しく読み進めるためのおすすめ書籍紹介!
何気ない日常に彩りを与えてくれる和歌の数々。 「古今和歌集」を味わい尽くすための厳選書籍をご紹介

「秋」の関連記事

おすすめ記事