長寿を祝う和歌を古今和歌集より8選ご紹介

和歌
その他
長寿を祝う和歌を古今和歌集より8選ご紹介

長寿を祝う宴で贈られた「賀歌」

平安時代には、親しい知人が長寿を迎えた際に、宴を開いて祝福する風習がありました。そうした宴席では、長寿を寿ぎ健勝を祈る「賀歌」と呼ばれる和歌が詠まれました。

賀歌には、めでたい言の葉が選ばれ、その詞のごとく、被賀尃に喜ばしいことがおこりますようにという意味が込められていたのです。めでたい語を重ねることで、長寿を祝すとともに、更なる長寿を願う心根が詠み込まれていました。

古今和歌集にも、賀歌のための歌が数多く集められています。歌人たちが、どのような言葉を選び、どんな思いを込めて長寿を祝ったのでしょうか。ここでは古今和歌集から、おすすめの賀歌を8首ご紹介します。

1. 国家の元になった、長寿を祝うための和歌

題しらず【よみ人しらず】

わが君は千代に八千代にさざれ石の巌となりて苔のむすまで

古今和歌集 賀歌より

訳:わが君は、千年に、八千年にましませ。さざれ石が巌と化して、その巌に苔の生えるまでに。

説明:この和歌は国家の元になったもので、「小石が生長して岩となる」という当時の信仰をもとに読まれた歌。「我が君」は天皇とは限らず広い意味で使われていて、その相手の長寿を祝い、千代にも八千代にも長生きをしてほしいという願いが込められている。

2. ちよちよと鳴く千鳥から「千代」を連想した歌

題しらず【よみ人しらず】

塩の山さし出の磯にすむ千鳥君が御代をば八千代とぞ鳴く

古今和歌集 賀歌より

訳:塩の山の川にさし出している岩に居ついている千鳥よ。君の御齢は、八千代だといって鳴いていることよ。

3. 親王時代(即位前)の光孝天皇からその伯叔母に、杖を祝いとして贈る様子を見て読まれた歌

仁和の御門の、みこにおはしましける時に、御をばの八十の賀に、しろがねを杖に作れりけるを見て、かの御をばに代りてよみける【僧正遍昭】

ちはやぶる神やきりけむつくからに千年の坂も越えぬべらなり

古今和歌集 賀歌より

訳:ちはやぶる神が伐って作ったであろうか。この杖をついている故に、越えがたい千年の老いの坂さえも、越えられそうであります。

4. 春に行われた四十の祝いの席にて読まれた歌

堀川のおほいまうち君の四十の賀、九条の家にてしける時によめる【在原業平朝臣】

桜ばな散りかひ曇れ老いらくの来むといふなる路まがふがに

古今和歌集 賀歌より

訳:桜花よ、散りかわして、すなわち盛んに散って、あたりが曇れよ。老いが来るとうわさにいっている、その路の紛れるように。

5. 賀宴に立てられる屏風の画を題として読まれた歌

貞保のみこの、きさいの宮の五十の賀奉りける御屏風に、桜の花の散るしたに人の花見るかたかけるをよめる【藤原興風】

いたづらに過ぐる月日は思ほえで花見てくらす春ぞ少なき

古今和歌集 賀歌より

訳:空しく過ぎて行く月日の方は、格別何とも思われなくて、花を見て暮らす春の日だけが、日数が少なく思われる事であるよ。

6. 賀宴に立てられる屏風の画を題として読まれた歌

本康のみこの七十の賀のうしろの屏風に、よみて書きける【素性法師】

古へにありきあらずは知らねども千年のためし君に始めむ

古今和歌集 賀歌より

訳:古えに、そうした事があったか無かったかということは知らないけれども、千年という長寿の例を、君によって始めよう。

7. 長寿の象徴とされる鶴亀を詠んだ歌

藤原三善が六十の賀によみける【在原滋春】

鶴亀も千年の後は知らなくに飽かぬ心にまかせはててむ

古今和歌集 賀歌より

訳:鶴や亀でさえも、千年の寿命の後は知られないことであるに、君が齢は、どれだけでも十分だとはしない私の心にまかせつくそう。

8. 「待つ」と「松」をかけて長寿を祝う歌

よしみねのつねなりが四十の賀に、むすめに代りてよみ侍りける【素性法師】

万代をまつにぞ君をいはひつる千年の蔭にすまむと思へば

古今和歌集 賀歌より

訳:万年の齢を待つ心から、おなじ詞の松で、君の齢を祝った。その松の永久の蔭に住む鶴のように、自分も父の永久のお蔭をこうむろうと思うので。

まとめ

このように、古来の歌人たちは、賀歌に素晴らしい言の葉を凝らし、心からの長寿の祝福を詠み上げてきました。

めでたい言葉を重ねることで、被賀尃の今後の更なる長寿と健勝を願う。そうした心情が古今和歌集の賀歌に溢れています。長寿を祝うという日本の伝統的な行事に、人々は詩情を注いできたのです。

長寿を祝う際の歌、その昔ながらの詩情を味わいながら、大切な方への祝意を込めてみるのも良いかもしれません。言葉には力があり、良い言葉を選ぶことで、気持ちを込められるからです。

古今和歌集を楽しく読み進めるためのおすすめ書籍紹介!
何気ない日常に彩りを与えてくれる和歌の数々。 「古今和歌集」を味わい尽くすための厳選書籍をご紹介

「その他」の関連記事

おすすめ記事