季節の移ろいの中に夏を感じさせる鳥、時鳥
時鳥は夏の訪れを表す象徴として多くの歌人たちに愛され、和歌の中でも表現され続けて続けてきました。
時鳥は古今和歌集の巻夏の三四首のうち二八の歌に収められており、古今和歌集において夏を表すキーワードの中心的存在となっています。
夏の時間の移ろいや、折々の心情を表現するのに欠かせない存在として歌われる時鳥の和歌を、古今和歌集より9首紹介していきます。
時鳥を詠んだ和歌9選
1. 藤の咲く夏の始まりに時鳥を待つ
題しらず【よみ人しらず】
我が宿の池の藤なみ咲きにけり山ほととぎすいつか来鳴かむ
古今和歌集 夏より
訳:我が家の庭の、池の中島の藤が咲いたことであるよ。山ほととぎすは、いつここへ来て鳴くだろうか。
2. 去年の鳴き声を思い出して心待ちにする5月
題しらず【よみ人しらず】
さ月まつ山ほととぎすうちはぶき今も鳴かなむこぞの古声
古今和歌集 夏より
訳:里へ出る時としての五月を待っている山の時鳥よ、羽ぶいて、今もまた鳴いてほしい、あの馴染ある懐かしい去年の古声を。
3. 時鳥を見て夏の訪れを感じる
題しらず【よみ人しらず】
いつのまにさ月来ぬらむ足引の山ほととぎす今ぞ鳴くなる
古今和歌集 夏より
訳:いつのまに五月が来たのであろうか。山時鳥が、今鳴いていることであるよ。
4. 橘と共に詠われる時鳥
題しらず【よみ人しらず】
けさ来鳴きいまだ旅なるほととぎす花橘に宿はからなむ
古今和歌集 夏より
訳:今朝、山からこの里に来て鳴いて、まだこの里を旅として、住みつけずにいる時鳥よ。我が家の花橘を、旅での宿として借りてほしい。
5. 時鳥を当時の恋愛模様に例えた歌
題しらず【よみ人しらず】
ほととぎす汝が鳴く里のあまたあればなほ疎まれぬ思ふものから
古今和歌集 夏より
訳:時鳥よ、お前の鳴く里は数多あるので、やはり疎まれる、愛してはいるものながら。6. 夏が終わり山に帰ってしまう時鳥を惜しむ
6. 夏が終わり山に帰ってしまう時鳥を惜しむ
題しらず【よみ人しらず】
今更に山へ帰るなほととぎす声の限りはわが宿に鳴け
古今和歌集 夏より
訳:今改めて山へ帰るような事はするな、時鳥よ、声の有るだけは、我が家屋のあたりで鳴け。
7. どこかへ行ってしまった時鳥を惜しむ歌
寛平の御時、きさいの宮の歌合の歌【大江千里】
宿りせし花橘も枯れなくになど時鳥声たえぬらむ
古今和歌集 夏より
訳:宿としたわが家の橘の花は、枯れない事だのに、何故に時鳥の声は、そこに聞えなくなったのであろうか。
8. 夏の夜の短さを詠んだ歌
寛平の御時、きさいの宮の歌合の歌【紀貫之】
夏の夜の臥すかとすれば時鳥鳴くひと声にあくるしののめ
古今和歌集 夏より
訳:夏の夜は、寝るかと思うと、時鳥の鳴く一声で、明けてしののめとなることであるよ。
9. 待っている人を思い出して読まれた歌
山に時鳥の鳴きけるを聞きてよめる【紀貫之】
時鳥人まつ山に鳴くなれば我うちつけに恋ひまさりけり
古今和歌集 夏より
訳:時鳥が、人を待つ松山に鳴いたので、その声に催されて、我は卒爾に、人恋しい心の増さったことであるよ。
まとめ
紹介した9首の和歌は、時鳥の鳴き声を通じて、新しい季節を心待ちにする気持ちや、季節の移ろいにしみじみする心、連想して思い出される人に対する切なさなど、様々な感情を表現しています。現代でも馴染みの深い時鳥は、1000年以上も前から人々に愛されてきたことが分かります。皆さんも時鳥の鳴き声が聞こえた時にはこれらの和歌を思い出し、自然の中に夏を感じてみると新しい発見があるかもしれません。