冬の代表的景物「雪」
白く純らかに、やさしく大地を包む雪。日本人は古くから、この冬の風物に魅了され、詩情を注いできました。
古今和歌集では冬の歌二十九首のうち、その大半の二十三首で雪が読み込まれています。歌人たちにとって、雪は冬の中心的な存在だったことがうかがえます。
雪の歌には、単に雪の景色を詠うだけでなく、春の霞とともに詠われ、冬から春への季節の移ろいが詠み込まれているものもあります。
また一方で、雪は空から舞い降りる様子から、白く散る花びらに見立てられることも。特に白さを共有する梅の花や、降ってくる様子が似ている桜とよく重ね合わされています。
このようにさまざまな角度から詠まれる「雪」のおすすめ和歌を、今回は古今和歌集より12首ご紹介します。
「雪」を詠んだおすすめ和歌12選
1. 春始まりに雪を梅の花に見立てた歌
雪の木に振りかかれるをよめる【素性法師】
春たてば花とや見らむ白雪のかかれる枝に鶯の鳴く
古今和歌集 春上より
訳:春になったので、梅の花と見るのであろうか。白雪の降ってかかっている枝に、鶯が鳴いていることよ。
2. まだ少し寒い春の日に降る雪の歌
雪の降りけるを詠める【紀貫之】
霞立ち木の芽もはるの雪降れば花なき里も花ぞ散りける
古今和歌集 春上より
訳:霞が立ち、木の芽までも張る、それにちなみある春の雪が降ると、花の咲いていない里でさえ、花が散ることではある。
3. 美しい桜を雪に見立てた歌
寛平の御時、后の宮の歌合の歌【紀友則】
み吉野の山べに咲ける桜花雪かとのみぞあやまたれける
古今和歌集 春上より
訳:吉野の、山のほとりに咲いている桜花は、雪であるかとばかり見誤られた事であるよ。
4. 桜と雪の名所として知られる吉野山が登場する歌
題しらず【よみ人しらず】
ふる里は吉野の山し近ければひと日もみ雪降らぬ日はなし
古今和歌集 冬より
訳:このふる里は、吉野の山が近いので、一日さえも、雪の降らない日といってはない。
5. 木に積もった雪を花に見立てた歌
冬の歌とてよめる【紀貫之】
雪ふれば冬ごもりせる草も木も春に知られぬ花ぞ咲きける
古今和歌集 冬より
訳:雪が降ると、冬ごもりをしている草にも木にも、春にも見られないところの珍らしい花が咲いたことであるよ。
6. 出家して山に入っていった人を思った歌
寛平の御時、きさいの宮の歌合の歌【壬生忠岑】
み吉野の山の白雪ふみ分けて入りにし人のおとづれもせぬ
古今和歌集 冬より
訳:吉野の山の白雪を踏み分けて入って行った人の、たよりさえもしないことであるよ。
7. 雪の降る光景から感傷的な気持ちを詠んだ歌
雪のふるを見てよめる【凡河内みつね】
雪ふりて人も通はぬ道なれやあとはかもなく思ひ消ゆらむ
古今和歌集 冬より
訳:雪が降って、わが家へ通う人さえもなくなった道だなあ。わが心も、その道のようにあとかたもなく、さみしさに思い消えるであろう。
8. 空から雪が降る様子を花に見立てた上で、空に視点を置いた歌
雪のふりけるをよみける【清原深養父】
冬ながら空より花の散り来るは雲のあなたは春にやあるらむ
古今和歌集 冬より
訳:冬でありながら、空から花の散って来るのは、雲のあなたの方は、既に春なのであろうか。
9. ほのかに明るい明け方に見る雪を愛でた歌
大和の国に罷れりける時に、雪の降りけるを見てよめる【坂上是則】
朝ぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里にふれる白雪
古今和歌集 冬より
訳:朝ぼらけに見ると、有明の月の光が映っているのかと思うばかりに、吉野の里に降っている白雪よ。
10. 春を目前にして雪を惜しむ歌
題しらず【よみ人しらず】
消ぬがうへにまたも降りしけ春霞立ちなばみ雪まれにこそ見め
古今和歌集 冬より
訳:消えつくさない上に、またも降ってかさなれよ。春霞が立ったならば、雪はまれにだけ見ることであろうよ。
11. 雪と梅の花が似ていることから読まれた歌
雪のふりけるを見てよめる【紀とものり】
雪ふれば木毎に花ぞ咲きにけるいづれを梅とわきて折らまし
古今和歌集 冬より
訳:雪が降ると、木という木に花が咲いた事であるよ。もし折ろうとしたら、どれを梅の花と差別して折ろう。
12. 年の終わりに詠まれた雪の歌
年のはてによめる【在原元方】
あらたまの年のをはりになる毎に雪もわが身もふりまさりつつ
古今和歌集 冬より
訳:年が終りになる度ごとに、雪も、わが身もまた、ふりまさり、ふりまさってゆく。
まとめ
このように、古今和歌集に詰まった"雪"への思いは、風物そのものの描写にとどまらず、季節感や他の自然物への喩えなど多彩な表現となって現れています。
雪は白く純らかで、やがて消えてなくなる儚さを湛えています。歌人たちはそこに、季節の移ろいと美しさ、そして短命の寂しさを重ね合わせて詠んだのです。
冬の日々、昔の歌人たちの残した詩情を味わいながら、今年の雪の移ろいを感じてみてはいかがでしょうか。